29話)





 居酒屋での事があってから、茉莉は余計に悩むようになった。
 歩の行動の意味が、茉莉には全く分からなかったからだ。
 ただのナンパから始まって、意外に気が合ったから、会おうと言ってくるのか。
 すべて分かった上で、彼なりの理由があるから、別人のフリをする真理と会おうとしてくるのか・・・・。
 この問題が判別付かないままに、会い続けていたから、こんな風になってしまったのだから、自業自得と言われればそうかも知れなかった。
 けれども茉莉が歩の事を、何とも想っていないなら、ここまでややこしく考える事はなかったのだろうとは思う。簡単な話だった。
 歩が何を画策してこようとも、立ち向かえた筈だった。逃げる一点に絞ればよかったのだから。
 彼への想いがあるから・・・歩が向けてくる優しい視線を、もっと味わいたいと思うから、茉莉は彼からの要求をすべて呑んでしまって、今に至る・・結果になってしまっていた。
 いっそのこと、すべてを知った上での行動だと思いたいくらいだった。
『茉莉』と上手くいかなくなっていても、本当は彼なりに何とかしたいと思っているから、真理と会おうとしてくれる・・・。
逃げの生活をする『真理』を通して茉莉を求めてくれていたのなら・・・。
 なにも考えずに、歩を受け入れれるのに。
 なぜ、歩が真理と接触を持とうとしてくるのか。
 この先、彼はどうするつもりでいるのか。
 真相が分からない。
 分からないから茉莉は、どうしたらいいのか、分からない。
 その上、彼を拒めない・・・・。